

去る4/4(月)に行われた枡野浩一さんの公式blog「枡野書店」のスペシャルUst中継トークイベント『男が悪い?女が悪い?なぜ男と女の愛はすれちがうのか?~映画「ブルーバレンタイン」を巡って』。出演陣はもちろん、客席も著名な方々ばかりという、異例の豪華イベントとなり、トークは白熱し、約3時間にも及びました。
こちらはその模様を映画に関連した部分を抜粋して公開する特設ページです。
すべて観たい!という方はこちらからお楽しみください。
http://www.ustream.tv/channel/masunoshoten
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| 主催 | 枡野浩一氏 | 歌人。短歌以外にもエッセイ、小説など様々なジャンルで作品を発表している。「映画エッセイ集+写真集+字幕短歌集」の文庫本『もう頬づえをついてもいいですか?』(実業之日本社文庫)発売中。 公式サイト http://masuno.de/ 公式ブログ http://masuno.de/blog/ |
|---|---|---|
| 司会 | 町山智浩氏 | 映画評論家、コラムニスト。新刊『トラウマ映画館』(集英社)発売中。 公式ブログ http://d.hatena.ne.jp/TomoMachi/ |
| 吉田豪氏 | プロ書評家&インタビュアーにして、現在、雑誌・新聞などでの連載数が20を超えるライター。 | |
| 出演陣 ~男が悪い派~ |
中村うさぎ氏 | 作家。『閉経の逆襲―ババア・ウォーズ<2>』(文春文庫)、『セックス放浪記』(新潮文庫)他著書多数。『「イタい女」の作られ方 自意識過剰の姥皮地獄』(集英社文庫)には、枡野浩一氏との対談も収録されている。 離婚歴あり。現在二度目の結婚中。 |
| 大泉りか氏 | ライトノベル&官能小説家。著書に『ファック・ミー・テンダー』(講談社)、『セク研!』シリーズ(小学館ガガガ文庫)など。 結婚式を挙げる過程で知り合った 別の男性を好きになり離婚の経験あり。 公式ブログ http://blog.livedoor.jp/ame_rika/ |
|
| 泉美木蘭氏 | 作家。著書に『M女の手帖』(幻冬舎アウトロー文庫)、『会社ごっこ』(太田出版)など。 芸人の元夫と泥沼離婚を経験。 公式サイト http://www.onna-boo.com/ |
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| 出演陣 ~女が悪い派~ |
古泉智浩氏 | 漫画家。著作には結婚未遂の複雑な出来事を描いた漫画『ワイルドナイツ』(全二巻・双葉社)もあり。 公式ブログ http://vivaall.cocolog-nifty.com/ |
| 切通理作氏 | 文化批評家。『宮崎駿の<世界>』(ちくま文庫)、『失恋論』(角川学芸出版)『情緒論 セカイをそのまま見るということ』(春秋社)他、著書多数 妻以外の女性との間に子どもがいる。 |
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| 永田王氏 | 元ライター。既婚。売れない作家と結婚し家出を繰り返しすものの、現在は元サヤに。 公式ブログ http://ameblo.jp/hakiinu/ |
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| 会場からの応援 | 藤井良樹氏 | ルポライター/漫画原作著、出版プロデューサーとしても活躍。 |
| 二村ヒトシ氏 | アダルトビデオ監督。著書『恋とセックスで幸せになる秘密」(イースト・プレス)が好評発売中。 |
CHAPTER 01 この男のココがダメ!
- 町山智浩
(以下、町山) - 今、皆さんに『ブルーバレンタイン』を観てもらったところです。この映画は、ディーンとシンディという夫婦が出会ってから結婚するまでの過程と、その結婚が5年後に崩壊した一日を交互に描いています。ディーンはペンキ屋さんで、シンディは正看護婦さん。二人は30歳前後で、5歳の娘がいます。この映画を観て、私は夫ディーンの味方だという方は手を挙げてください。はい(数える)。今度は、私は妻シンディの味方、という方。(数える)。では、それぞれの立場からのご意見をうかがっていきます。映画の感想を含めて。
- 枡野浩一
(以下、枡野) - じゃあ、奥さんの味方だという大泉りかさんから。
- 大泉りか
(以下、大泉)
以前私が、結婚式を挙げた彼と別れてしまった時に、枡野さんが投げかけてくれた言葉がありまして。「愛のことはしょうがない」と。この映画の二人も、別にどっちが良いとか、どっちが悪いとかではなくて、ほんとに「愛のことはしょうがない」んですよ。じゃあなぜ奥さん、シンディを支持するのかといえば、あのまま喧嘩しながら一生一緒に年を取っていっても、あまりいいことはないんじゃないかなと。だから(別れる判断をした)」シンディを選びました。- 町山
- なるほど。なんでシンディはディーンを嫌いになったんだと思う?
- 大泉
- 恋が冷めただけじゃないですかね。
- 町山
- なんで冷めたんですかね?
- 大泉
- 何でですかね?でも恋って冷めますよね?
- 町山
- なんか冷めやすい人が言っている気もしますけども(笑)。
- 大泉
- いやいや(笑)。
- 吉田豪
(以下、吉田) - 旦那、ディーンが全然成長しないから、とかですか?
- 大泉
- いや、たぶんシンディは元々、一瞬恋に狂っていただけなんじゃないかと……。
- 吉田
- 諸事情で困っていた時にね。
- 大泉
- 出会った瞬間は恋が盛り上がって、でもそれは月日を重ねていくと自然に冷めるものですよね。でも、(シンディとディーンは)諦めがつかなかったというか……もし諦めれば生活して行けますよね。それを愛というのかもしれないけど……。
- 町山
- シンディがディーンを最初に好きなったのは、彼女の周りにいる男たちが父親も含めて嫌な奴ばっかりで、ディーンは初めて会った本当に優しい男だったからですよね。でも結婚すると優しさだけじゃ続かないのかな?
- 大泉
- 自分に重ね合わせると、私が前に結婚しかけた人は港湾労働者だったんです。収入は私の方がよくて。でもすごく優しい人だったんですけど。
- 町山
- 『ブルーバレンタイン』の二人と似てますね。
- 大泉
- そうなんです。最初は優しくていい人だって思ってたんですけど、でも向こうは、私の仕事に対して嫉妬するようになって。口先では応援してるよとか、君のしていることは全部僕は受け止めると言うんですけど……。
- 町山
- で、イライラしてきて…。
- 大泉
- でも、どうしようもないですよね?すべてがそういう感じだとキツイくて。嫉妬されるって一番辛い。
- 町山
- すごい、『ブルーバレンタイン』そっくりだ。じゃあ逆に夫のディーンに共感する方の意見をちょっと聞いてみましょう。えーと、古泉くん。
- 古泉智浩
(以下、古泉)
ディーンって、すごく優しいし、奥さんのシンディをちゃんと愛してるし、素晴らしい人じゃないですか!シンディもね、俺の大っきらいな「キーッ!」と理不尽に発狂するタイプじゃないし。- ――――――
- (会場爆笑)
- 吉田
- (古泉さんの)前の奥さんが、そういう人だったんですよね。
- 古泉
- ええ。男だから自然とディーンに感情移入しちゃったんですけど、シンディの方も全然、応援したくなっちゃうんですよ。
- 町山
- 比較的いい人だと。
- 古泉
- 素晴らしい奥さんじゃないですか。でも、なんで旦那を嫌いになっちゃうのかは、全然意味が分かんないですね。
- 町山
- シンディがなぜディーンを嫌いになったのか、誰か説明してあげてくれませんか?
- 中村うさぎ
(以下、中村) - 彼、幼稚すぎるからでしょ。
- 枡野
- 幼稚ですか?
- 中村
- ものすごーく、世界が狭い。恋愛している時は、ちょっとこっちも頭が色ぼけしてるから(笑)そういう男の幼稚さみたいなところも、可愛いとか、少年みたいで純粋とか思うけどさ。一緒に生活していくのに、幼稚な男は最低だね。色んな事が積み重なって、喧嘩したりして、段々気持ちが冷めていくっていうのは、皆わかるでしょ?ディーンの最悪なところは、冷めた関係を修復しようとする時に、ちゃんと会話しないで、セックスとか抱きしめたりとか、挙句の果てには、気分変えてラブホでも行ったら、またラブラブになれるんじゃないかって…アホか!
- 吉田
- 嫁が忙しいって言ってるのにね。
- 中村
- 女はね、本当に嫌になってきたら、もう触られるのも嫌なの。奥さんがラブホで、旦那におっぱいとか揉まれているときに、グーッて拳握ってるじゃん?あれ、すんごく分かるの。もう気持ち悪いんだよね。止めてって言ってんのに、男はそういうことしちゃえば修復できるんじゃないかって思ってる。そこもまた幼稚だと思うんですけど。
- 町山
- 素晴らしい指摘ですね。
- 吉田
- さすがですね。
- 枡野
- まだそれをやろうとするだけ、いい奴じゃないですか。
- 古泉
- 幼稚だ!って嫌われたら、にっちもさっちもいかないですよ~。
- 町山
- 古泉くんは、幼稚さが俺の魅力って思ってない?
- 古泉
- いやいや、僕は自分のこと、ちゃんとした、しっかりとした男だと思ってますよ(笑)。
- 枡野
- 僕、ディーンがなぜシンディに嫌われたのかわかりますよ。彼が禿げてしまって、変なメガネかけてて、イーグルがプリントされた服を着ているのがいけないんです。あんな格好してたら奥さんも嫌いになっちゃうと思います。
- ――――――
- (会場から、カッコいいよ、という声)
- 枡野
- (無視して)で、禿げに関する指摘は、一緒に試写を観た藤井良樹さんが指摘してくださったんだけど、こんな資料も用意してくださったんです。(資料を読み上げる)男性と女性の意識の違い。もう若くないと感じるのは、女性は29歳で、男性は58歳。
- 藤井良樹
(以下、藤井) - それはイギリスの葬儀会社が最近とったアンケートです。この映画を観終わった後に思ったのは、『ラスト・タンゴ・イン・パリ』に似てるなぁって言うことと、ものすごい秀逸な禿げ映画だなぁと。
- ――――――
- 会場(笑)
- 藤井
- さっきのアンケートにあったように、女性は29歳で自分を若くないと思ってるのに、男は50過ぎてもまだまだ現役って思ってる。この映画のディーンはかっこいい禿げゆえに、自分が禿げていることに気づいてなくて。彼の見た目の変化は、監督がきっと絶妙に考えてるじゃないかと。そこが「非常に秀逸な禿げ映画」って認定しちゃうところなんです。
- 枡野
- 確かにね、禿げてもかっこいい禿げの人っているじゃないですか。年取った方が魅力的で禿げた方がカッコイイ人もいるけど、ディーン(映画の主人公)の場合、若い時にハンサムだからね。あの、あとなんであんなイーグルのシャツを着てるのか。
- ――――――
- 会場(笑)
- 藤井
- 以前に何かの対談で、みうらじゅんさんが、こう言われてたのを読んで、妙に共感しちゃった覚えがあるんですが、「高校野球の甲子園中継観ててさ、最後に選手が並んで校歌歌うでしょ。あれ、あの中に自分が混じって歌ってても、なんかバレないんじゃないかって思ってたんだよ」って(笑)。「最近ようやく、俺があの中にいたらバレるなってわかった」と(笑)。男ってそういうところあるんです。自分もすごくあります。多分、女性がそれを許せないって思ったらキツイだろうなと思うんです。
- 町山
- そうね。映画の彼は、自分は変わってない、別に変わる必要ないって思ってるけど、奥さんはすごい成長しちゃってるんだよね。一般的にも小学校くらいから女の子は男より早く成長してくから。
- 枡野
- 泉美木蘭さんはこの映画、どうだったの?
- 吉田
- 旦那さんのことは言っていいんでしたっけ?
- 泉美木蘭
(以下、木蘭) - かるく伏せていただいて……。
- 吉田
- 訴えられるとか?(笑)
- 木蘭
私は旦那や生活に追い詰められて、子どもを連れて蒸発したんです。でも、この映画の旦那さんみたいな人だったら離婚できない。- 吉田
- あれだったら耐えられた?
- 木蘭
- ディーンは、奥さんを変えようとはしないから。私の元旦那はものすごく私を変えよう変えようって迫ってきて、それって愛なの?って感じてしまったので。
- 町山
- 『レボリューショナリー・ロード』のディカプリオ演じる旦那がそういう人でしたね。奥さんに説教ばっかりしてるんですよ、ずっと。
CHAPTER 02 働く妻の罪悪感を理解できない主夫
- 切通理作
(以下、切通)
俺、ディーンの味方側に座っているんですけど、シンディと喧嘩してるとき、見ていたシンディの同僚から「洗脳されないで」って言われた時に、彼は「なにが洗脳なんだ」って同僚に言うじゃないですか。あの気持すごく分かるなと。ディーンは別に洗脳しよう、自分が支配しようと思っている人じゃないんだけど、実際はこう、自分のノリで持っていこうとしてるでしょ。- 枡野
- あの二人に夫婦共通の友だちがいたら、どっちについたんだろう?
- 中村
- 共通の友人がいても、ディーンみたいな人って、アドバイスとかたぶん聞かないと思うんだよね。ディーンがさあ、「俺はいい旦那で、いい父親じゃないか」って言うところ、枡野さんみたいだったよね。(笑)
- 町山
- そうそう!
- 枡野
- それ、自分がそうだからよく分かった。それによって奥さんは後ろめたさを持ってるんだよ、ずっと。
- 町山
- 看護婦の仕事が忙しくて娘の参観日にも行けなかったりね。それをディーンがすごく責める。仕事の方が大事なのかよって。
- 枡野
- 俺はこんなに娘と仲良くできてるぞ、って態度なんだよね。僕もそうでしたねぇ。
- 中村
- (笑)。
- 枡野
- こんなに仲良い僕と子供って態度だったから。たぶんシンディと同じように、ウチの奥さんも「ふたりで仲良くして」ってイライラしてたと思う。
- 町山
- で、奥さんの罪悪感を責め立てる感じになっちゃうんだね。
- 枡野
- 少なくとも、奥さんはすごい後ろめたさを持ってたんだと思う。
- 町山
- 俺もそうだった。子どもが小さかった頃は暇だったから、朝から晩まで家で子供とずっと一緒にいてさ。カミさんは外で働いてて。そうすると、俺は子供の面倒みているから、夫婦関係において俺の方が偉いんだみたいな気分になってくる。この映画のディーンもさ、ちょっと威張ってるじゃない?主夫もやって、俺の方が家事もやって。
- 枡野
- 朝からビール飲んで何が悪いみたいなね。
CHAPTER 03 金を稼げない、向上心のない男には魅力がない?
- 町山
- これすごい女の人に聞きたいんですけど、この映画みたいに旦那が全然収入ない場合、それで愛情が減るということはありますか?
- 永田王
(以下、永田) - うちは、丸1年半くらい旦那の収入がなくて、旦那の。
- 枡野
- 純文学作家としてとっても活躍している人なんですよ!
- 永田
- (笑)う~ん。でもやっぱり嫌になっちゃいましたね。
- 町山
- やっぱり。
- 永田
- 自分に経済力がある時は全然気にならないんですけど、自分の仕事が減って弱気になると、私今、弱ってるんだから、ちょっと助けてよ!って。やっぱお金はねぇ、ないと不安になっちゃいますよ。
- 枡野
- シンディがディーンに「もっといい仕事に就けば」みたいなことを言うじゃないですか。あれはやっぱり(旦那の仕事が)不満なんですかね?
- 吉田
- 向上してほしいんじゃないですか?
- 枡野
- 成長してほしいんだ!
- 町山
- ディーンはまったく変わろうとしないからね。
- 枡野
- 町山さんは成長した奥さんの味方で、成長しない男はダメだと思って映画をご覧になりました?
- 町山
- だって奥さんはどんどん大人になって先にいっちゃうんだよ。男が止まってたら、二人の距離が離れちゃうよ。
- 枡野
- 町山さんの場合、町山さん自身も成長されて?
- 町山
- いや、俺は全然成長しなかったから、気がついたらカミさんがすごく遠くへ行っちゃってたの。でも、それに気づいてなんとか頑張って追いついたんだけど。絶対離れちゃうよ、男が進もうとしなきゃ。
- 吉田
- 男って本当にバカですからね。
- 町山
- バカですからね。男はまたマズいことに、バカなくらいがいいって思ってる。で女の人も、そんな男の幼稚さにまた惚れちゃうから。で、結婚したのに、しばらくすると、やっぱり成長しない男が嫌になってくるわけですよ。
- 吉田
- 同じことをされても許せなくなっちゃうわけですよね。
- 枡野
- 勝手ですね。
- 中村
だってさ、やっぱり生活だから結婚って。成長してくれないと、寛容になるでもなんでもいいんだけど、何か変化を起こしてくれないと、ずっと同じじゃあ。幼稚なままだと、生活が成り立たないと思うんだよね。
CHAPTER 04 女性の持つ心の穴
- 二村ヒトシさん
(以下、二村) - 奥さんの悪口を言ってもいいですか?枡野さんの奥さんの悪口じゃなくて映画の奥さん、シンディの悪口ね(笑)。奥さんも実は悪いところがあると思うんです。ああいう男性たちを引っ張り込んでしまう心の穴がある。
- 枡野
- 二村さんの新刊に書かれている心の穴問題ですね。
- 二村
- そう、シンディに寄って来る男って変なのばかりでしょう。医者といい、レスリング部の男といい。『レボリューショナリー・ロード』の場合は50年代アメリカの社会の問題もあるじゃないですか。実は社会のほうが間違っていて、まともなのは奥さんと隣の家の精神病の彼だけだっていう見方もできる。でも、『ブルーバレンタイン』は現代の話だから。収入格差とかの話になると、確かにディーンはどうしようもない男で、町山さんのおっしゃる通り成長してないとは思うんですけど、純粋に恋愛という局面からみると、シンディは相当心の穴が大きくて、男たちもそこに引っ張りこまれるんじゃないかと。
- 中村
- どんな穴なんですか?
- 二村
ディーンが育った家庭は最初から崩壊してて、彼が家族を求めているのはわかりやすい。シンディの家庭は良いおうちなんですよね、形だけは。でも実際はひどい父親で。ディーンは家庭を知らないから家庭を求めるというのがあって、奥さんは形だけの家庭だったらない方がいいと思ってる。この奥さん、本当は誰も愛してないんだと思うんですよ。ディーンのことも愛してないし、レスリング部のことももちろん愛してないし……。- 枡野
- あ、わかった。だからあれでしょ、彼女は自分のことを好きと言ってくれる男に応えてるだけで……。
- 二村
- そうそう!
- 枡野
- うちと同じじゃないですか(笑)。
- 切通
- あのレスリング部の男がさ、凡庸なドラマだったら、シンディを捨てるひどい男として描かれるじゃないですか。でも『ブルーバレンタイン』では、彼はシンディを引き受けようとしているんですよね。それを彼女の方が拒絶して電話にも出ない。シンディは彼との間を解決しようとしないでディーンの優しさに乗っかっちゃった。相手とぶつかることで自分を見つめることなく来てしまったのではないかと。だから結局同じことを繰り返す。
- 二村
- 彼女は次へ次へと行くだけなんですよ。
- 枡野
- それもうちと一緒じゃないですか~。
- ――――――
- 会場(笑)
- 枡野
- 今、愕然としながら聞いていました。僕だけが気づいてなかったのかなぁ……そういう穴とか。
- 二村
- ん~、そういう穴がある人だからこそ描く漫画が面白いこともありますからね。
- 町山
- 今、枡野くんの元奥さんがモーニングに連載してる漫画面白いもんね。
- 枡野
- 僕の息子がモデルのね。
- 町山
- あれ読むと息子さんと母親の関係はいいんだろうなって思うよね。
- 枡野
- あの漫画が本当だとしたらね。そうであって欲しいと思ってますけど。
- 町山
- すごい良い母と息子の関係が描かれてるよね。でも完全に父親は不在なんだ。きっと本当は父親いらないんだね。たぶん。
- 枡野
- そうだ。僕と別れた直後に彼女が描いた漫画も、山登りの話なんですけど、夫が途中からいなくなるんですよ。なぜかっていうと、僕が実際、家族で山登りした時に体力が衰えて、途中で「ごめん!僕もう行けないから」って言って途中で、お茶屋さんで僕だけ待ってたの。
- 町山
- あ~、駄目だ~(笑)。
- 枡野
- それを漫画に描かれたんですよ。もう夫がいなくて、母親と子供だけが前向きに生きて行こう!みたいな話になってたの。
- 町山
- さっき俺が言った、カミさんだけが夫を置いてどんどん先に行ってしまうという状況を象徴するようなことをやっちゃったんじゃん、自分で。
- 切通
- 町山さん前言ってましたよね。男と女では肝心な時に一緒にいるってことが、どれだけ大切なことなのか!って。肝心なときに一緒にいないのは致命的だって。
- 枡野
- 致命的だったんですね~。でも僕体力ないので、今、あそこにもう一度戻っても、お茶屋さんで休むと思う(笑)。
- 町山
- 枡野くんてさ、すごく論理的な人だから、「私は疲れているからここで休むのが正当な権利である」って考えるよね。
- 枡野
- 「僕待ってるからさ」と言っても彼女は子供を連れて行っちゃうんですよ。「いや、行く」って言うから、「じゃあ行けばって」。
- 町山
- そこで「あ、もうこれは無理しても行かないとヤバい」とは思わない?
- 枡野
- 思わないですね~。
- 町山
- はあ。これはもうダメだね。「男前」ってのは「やせ我慢」のことだと思うけど、枡野くんは絶対にやせ我慢しないんだよね。それですごく家族の思い出になったかもしれない瞬間を捨てちゃった。
- 切通
- 重要な時に居合わせられないっていうのも、枡野さんの心の穴だと思うんですけどね(笑)。
CHAPTER 05 言語化できない女にだって問題はある!
- 町山
- 僕も、この映画のシンディも困ったもんだと思いますよ。彼女はディーンにイライラしてるけど、どうしてイライラしているのか、その本当の理由を言わないんですよ。「あなたには才能があると思うわ」とか非常に遠回しに言う。ただね、シンディだけに特に問題があるわけじゃなくて、女の人って言わないんですよね。
- 枡野
- そうそう!何で言わなんでしょうね。違うことで言われても、違うことで直しちゃうじゃないですか。
- 中村
- 私は言うよ。
- 町山
- それは男っぽいんですよ。
- 中村
- えっ?違うよ!
- 町山
- 女の人っていちばん怒ってる時に言う言葉は「別に」と「どうでもいい」でしょ。「怒ってる?」って尋ねた時、女の人が「別に」と答えたら、言葉それ自体は「別に怒ってない」だけど、実際はムチャクチャ怒ってる。つまり逆のことを言うわけでしょ。それは、「いちいち言葉で言わなきゃわからないの?」という意味でもあって。
- 切通
- あ、でも分かる!喧嘩って、なんで怒っているのかが分かると、ほとんど仲直りできるんだけど、その答えに到達するまでに違うことにすごい気を使って、俺これだけ理解しようとしているのに!ってなる。
- 町山
- 女の人って本当に怒っている理由を言語化しない。その周辺のことだけを言うんですよ。で、本当の理由は言わなくてもは気づけよと。
- 枡野
- 一緒にこの映画を観た女性が言ってたんだけど、シンディはディーンに「責任のある仕事についてくれ」って頼むことによって、私が責任のある仕事で苦しんでいるのを分かってほしいんだって言ってたんだけど。
- 町山
- でも、そういう風にはっきりと言語化しないでしょ。「何怒ってるの?」って聞いても「別に」とか言う。だから旦那もわからなくてイライラしちゃう。
- 古泉
- そんなエスパーじゃないんだから、無理ですよ~!
- 町山
- 女の人からすると逆に、いちいち言葉にしなきゃわからないような男じゃダメなんでしょうね。
- 中村
それについては一つ言いたい!あのね、男にあまりにも核心に触れることを言うと逆ギレされて、面倒くさいの。つまりさ「お前のチンコが小さいのが頭にくるんだよ!」とかさ、「お前のそのケツの穴の小ささがイライラすんだよ!」ってことを言ってしまったら、男って、本当のこと言われたらすごい怒るじゃん!だから、本当のこと言ったら怒るのを知ってるから言わないのよ。- 大泉
- 旦那と別れたあとに親に、「でもね、釣り合わなかったんじゃない」的なことを言われて「だよね、収入とかもね」って言ったら、「でもそんなこと最初から分かってたことじゃない」って言われたんですけど、分かってるけど、それを言ったらあまりにも可哀そうじゃないですか、男の人に。
- 中村
- それは言えないよね。
- 大泉
- ね。やっぱ言えないんですよ。
CHAPTER 06 男の方が恋愛に執着する?
- 切通
- ディーンって、朝からビール飲んで仕事して、娘と戯れて、理想的な生活だと思った。前半観てて、こういう人になりたいと思ってた。だから俺、ディーンの味方側に座ってるんだけど。だから後半、それじゃ通用しなかったのか、ガーン!って(笑)。
- 枡野
- ディーンって、シンディの親に挨拶に来た時はすごくフラットで、奥さんのことを尊重しているし、自分が学歴がないこととかも、割と素直に受け止めてて……。
- 吉田
- 素直でもなかったですよ。どうせろくでもない学校だったとか余計なこと言ってたじゃないですか。
- 枡野
- コンプレックス丸出しでした?
- 吉田
- ええ。
- 切通
- でも、いいところもある。ディーンは最初、引っ越し屋さんをやってて、独り暮らしのおじいさんが老人ホームに入居するのを手伝うんだけど、本当だったらちゃちゃっと事務的に済ませなきゃならないのに、そのおじいさんのために、奥さんと二人の写真を立てかけてあげたり、マッチのコレクションをきれいに飾ってあげたり……。
- 町山
- ものすごく優しい男なんだよね。
- 切通
- おじいさんの気持ちをわかって上げられる男でもあるし、そのマッチの飾り方を見るとしかもレイアウトセンスもあって、クリエイティブな資質は垣間見える男なんですよ。
- 町山
- そうそう。シンディが言うようにたしかに才能はある。たまたま、人生始める段階で、家庭の問題で落ちこぼれちゃったけど。あと、彼、友だちもいないんだよね。
- 吉田
- 出てこなかったですよね。
- 町山
ディーンは誰とも繋がってなくて本当にこの世界で独りぼっちの流れ者だった。そんな彼にやっとできた世界との接点がシンディなの。でも、運命の女性とどこかで会えると思ってて、だから、「男のほうが女よりロマンチストだよね」とか言うの。俺も男の方が本当は恋愛に執着すると思うんだけど。- 中村
- 男の人の方が恋愛に執着するかなぁ?女の子はやっぱり、漫画にしろ小説にしろ映画にしろ、恋愛ものが好きじゃん。子供の頃に読む少女漫画は恋愛ものが中心だし。だから女の子の方が、人生の八割くらい恋愛のこと考えてるのかと思ってたけど。
- 町山
- たしかに、一般的には、男は色恋に対して興味がない、と思われてるけど、実際は恋愛について女の人の方が客観的だったり、冷静だったりしない?その一方で、男の方が恋愛に非常にこだわってて。『ブルーバレンタイン』はそれをすごく象徴して描いてる。ディーンが考えているのはシンディとの愛のことだけなんだよね。
- 吉田
- はい、はい。
- 町山
- 仕事とか世間のことはあんまり考えてない。で、あの泣けるラブソングを歌う。歌詞は、「きみと僕、きみと僕、世界にもう他に何もない、きみと僕」。
- 枡野
- あ~もう、世界のすべてがきみ。
- 町山
- きみと僕以外の世界、興味ないって歌う。でもシンディは看護婦として社会の中で生きてるから、噛みあわなくなっていく。
- 吉田
- 現実がはいってきますもんね。
- 町山
- ディーンはシンディに「君と結婚できたからもう人生のゴール」みたいなことを言う。女性にとってはそこから仕事や子育てや本格的な生活が始まるのに。だから夫は妻に置いていかれちゃう。
- 切通
- 彼の気持ち、すごく良く分かる。俺がああいう状況になったら、あれもうゴールですね。で、彼女に置いてかれちゃう。ラストだって、俺はあれで終わりだとは思いたくない!
- 町山
- 女性は「愛が消えた」と思ったら結構スパっと切るでしょ。でも、男は相手の愛が消えてるのに悪あがきする。
- 枡野
- だめだめ。あそこで別れないと泥沼が待っているよ。
- 中村
- でも、確かに別れを考えると、男の方が執着するんだよね。じゃあ、男にとっても恋愛が大切なんだとしたら、男はどうしてあんなに恋愛が下手なの?
- 町山
- ねえ(笑)。
- 中村
- 女の人にとって恋愛って「何かを2人で作りましょう」だと思うの。生活を、家を、家族を、人生を、何か一緒に作りましょうって、いろんなものを共有したいわけよ。で、男の人ってあんまり共有したがらない。「それはもう勝手にやっといて」みたいな。実は私はあんまりそういうことやらないんだけど、面倒臭がり屋だから(笑)一般的な女の人の話ね。
- 町山
- 女性がたとえば家のことや子どものことを、男に聞くと、「別にいいよ、君の好きにしたら」って。実は無関心。
- 中村
- そう言うの聞くと「恋愛する気ないの?」って、そういう風に思っちゃうわけ。
- 藤井
- 男はバンドやるとか、漫画家になるとか、いい大学に入るとか、サッカー選手、プロ野球選手になるとか、実はゴールは女にもてたいから。色んな事をやっているように見えて、案外それが女にモテたいだけっていう。逆にいうと女性は……中村うさぎさんが言われてたのか、くらたまさんが言われてたと思うんですが、「女は仕事で成功すればするほど、モテなくなるよ」って。
- 中村
- 私が言ったんだよ。
- 藤井
- だから女性の場合、スポーツや仕事で頑張るとか、漫画家や作家になりたいとかは、異性にもてたいという動機とは繋がっていない。
- 町山
- 逆に女性は男性がいないと仕事で頑張らなきゃいけない、みたいな。昔は、女の人の収入は限られてたから、男の人と結婚して食わせてもらうしかないっていう社会的状況があったから。女の人にとって、恋愛は生きる手段だった。
- 藤井
- 昔は女性の就職率が、むちゃくちゃ低かったですからね。
- 町山
- だから女性は恋愛に現実的で、男は恋愛しなくても生きていけるからロマンチスト、つまり恋愛を理想化しているできると思うんだけど。
- 中村
- それはね、女性は子ども生むからだと思うよ。
- 町山
- そうですね、子どものためには現実的にならないと。
CHAPTER 07 ブルーバレンタインの効用
- 古泉
- シンディが医者に体験人数を聞かれて答えるシーンがありますが、ディーンは少ないんですかね?
- 町山
- 彼はほとんど童貞でしょ。
- 古泉
- え~!!!
- 吉田
- ですか?
- 町山
- セックスだけは経験あるけど、本格的恋愛は初めて、みたいな。だって恋に恋してる男だから。それとも、演じるライアン・ゴズリングがダッチワイフと恋愛する『ラースとその彼女』の印象が強すぎるからかな。
- 古泉
- 刺青いっぱい入れてるのに。
- 枡野
- 彼、悪女に憧れがあるっぽいこと、言ってますよね、最初に。だから、あらかじめ傷つきに行ったようなものですよね?
- 町山
- ああ、そうね。
- 枡野
- ほんとに、人のことだと良く分かりますね~。
- 吉田
- (笑)。
- 町山
- だから枡野くんにこの映画を観てほしくてさ!
- 枡野
- 僕、憮然として観ちゃったんですよ。町山さんは号泣されたんですか?
- 町山
- うん、めちゃくちゃ泣いた。
- 吉田
- さっきも試写してて、結構泣いてる声、聞こえましたよね。
- 町山
- 最後の花火なんかやりすぎ。この花火要らないって思った俺。
- 枡野
- 今回、皆さんと観てて、割と笑いがあったりしてましたけど、でも僕はものすごい冷静に観ちゃって……映画としては観られなかった。
- 町山
- (笑)。
- 吉田
- 観てダメージを受けた人は多いと思いますよ。
- 枡野
- ああ……僕は、ダメージじゃなかったですね。羨ましかったですよ、ディーンが。
- 吉田
- (笑)あんま効果なかったんじゃないですか?枡野さんに見せても。
- 町山
- (笑)『ブルーバレンタイン』は、あるていど恋愛経験のある人には、「あるある!」って映画で、枡野くんみたいに恋愛経験の少ない人にはすごく勉強になると思ったんだけどね。
- 枡野
- 勉強になりましたね~。
- 吉田
- 結婚前の人には、こういう風にならないようにしようって学習になりますよね。
- 町山
- で、この『ブルーバレンタイン』という映画、結末についてアメリカでは論争があるんですよ。
- 枡野
- 二人が復縁するかどうか?
- 町山
- うん。「これは男女関係の終わりを描いた映画だ」とインタビューで言われた主演のライアン・ゴズリングが「いや、これは終わりじゃなくて、始まりを描いた映画かもしれないじゃないか」と。「彼はこれで一つ反省して、直して、もう一回復縁するかもしれないよ」と言ってるんですよ。でも女の人からすると「いや絶対あり得ない」という意見が多いらしい。さっき中村さんが言ったように、女の人はいちど嫌いになると生理的にもうダメだからって。女性のみなさんはどう思いました?
- 枡野
- 永田さん。復縁した永田さん。
- 町山
- 復縁した人ですか!この映画の状況で復縁はあり得ますか?
- 永田
私、この映画、すごい楽観的に観ちゃって。ラストシーンを観ても、ああこの二人、絶対うまくいくって思ったんです。- 吉田
- それは永田さんが特殊な経験をしているからですよね。
- 枡野
- 純文学作家の旦那様と別居されて……。
- 永田
- まあ、私も自分の旦那とは色々あって、もう顔を見るのも嫌、触られるもの嫌、会いたくもない、もう絶対離婚しなきゃだめだって思ってた時があって。でも別居したら……復縁してしまった。きっと映画の二人も長く別々に暮していれば、また寂しくなるよって。あんなに旦那さんはすごいいい人だし、奥さんもすごい頑張っているし、絶対うまくいくよって。同じ夫婦の破局を描いた映画でも『レボリューショナリー・ロード」の方は、本当に絶望しました。旦那さんのディカプリオはしゃべりすぎだし……もう嫌だ!って思ったんですけど。『ブルーバレンタイン」は、うん、全然大丈夫だって思いました。
- 町山
- うちも家庭内別居して復縁しました(笑)。
- 永田
- ああ~(笑)。
- 町山
- 俺も、カミさんに「触られるのも嫌だ」って言われて、ソファ1年寝てたんですよ。
- 吉田
- この映画みたいな状態だったわけですか?奥さんに拒否されて……。
- 町山
- そうそう、「触られただけでゾッとする!」みたいな。でも復縁したんでね。
- 枡野
- 僕、『ブルーバレンタイン』の結末を観ながら、心の中でディーンにこう言ってたんですよ。「もう離れろ、このまま離れろ、お前!」って。
- 切通
- シンディの父が「追うな」ってディーンに警告してましたね。
- 吉田
- あがいちゃだめだって。
- 枡野
- そう!あのまま五年経てば会えるから、頼むから未練がましく電話したりしないでくれって思いながら、ディーンの背中を見送りましたよ。
- 町山
- その通りだよ!あそこでじたばたすると子供に会えなくなっちゃうから。復縁の可能性だってなくなっちゃうわけでしょ。枡野くんみたいに。
- 枡野
- ほんと、人のことだとよく分かりますよね~。
